これは、とある厳粛な儀式の一幕。 年に一度、王国の建国日を祝した祭が行われると、七石騎士達はそれぞれの国から王への贈り物を携え、王在る国……この数百年はスペルビアを指す……に集結する。

普段は政務官や謁見や請願に訪れた国民、それから警護の騎士達と……と、なにかと騒がしい謁見の間も6人の騎士たちが一堂に会せば、途端に深い神秘を秘めた静謐の間へと変わる。 少し遅れて王が現れると、こっそり談笑していた近衛達も途端に黙り、揃った動作で王座へ最敬礼を捧げる。それは七石騎士とて変わらない。一人ずつ頭を垂れ、跪くと騎士王の言葉を待つ。 「面をあげよ、楽にしろ。」 そう許しが出るとそれぞれ姿勢を正すもの、裾を払う仕草をするもの、そのまま立ち上がり王をじっと見つめるもの……とそれぞれ分かれ、全員が揃うと古くから続く仕来り通りの順に、一人ずつ口上を述べていく。

「栄華の都、すべての享楽が集まるくに。翠玉 ルクスリアより守護石の騎士 アモル=ベルマーレが、我らが王にご挨拶を申し上げます。今年も変わりなくこの日を迎えられたこと、誠に喜ばしく思います。この泰平の世も我らが王のお力に違いなく……」 「……色欲《ルクスリア》。毎年同じ言を与えている気がするが、今年も与えねばならないか?毎度お前の口上はくどい上に長ったらしい。簡潔に纏めろと何度言えばわかるんだ?」 「おや、これはこれは……王よどうかお赦しを。職業病ですからね。こればかりは……おっと、まただ。……こほん。それでは最後に、最も敬愛すべきカーテナ聖王陛下と我らの祖国に変わらぬ栄光があらんことを!」 静謐な空気を壊すように色欲 ルクスリアの騎士が賛美を送るが、こういった格式張った行事を嫌う傲慢の騎士王は、眉間に皺を寄せ苦言を呈する。それを軽く流しルクスリアの騎士が何もなかったように口上を締めるのは毎年の恒例となりつつあった。

「……貪食の都、すべての美食が集まるくに。黒曜 グラより新しき守護石の騎士 アウトゥーヌス=トリスティティア。ご挨拶に参上しました。願わくば、聖王様の治世に飢えが蔓延らぬように。…以上です。」 「流通の都、すべての財貨が集まるくに。黄金 アワリティアより新しき守護石の騎士 ルーナ=アストルム。この記念すべき日に相応しき物を持ち、馳せ参じましたの。後程ご確認くださいませね。そして、カーテナの未来が古より輝く聖鎖のように光り輝くものでありますように!お祈り申し上げますわ。」 騎士達の中でも新参に当たる、守護石に選ばれたばかりの暴食 グラの騎士と強欲 アワリティアの騎士が順に口上を述べ動きを揃えて腰を折るが、騎士王はあまり興味がないのかすぐに次の騎士へと目をやる。

「革新の都、すべての技術が集まるくに。蒼玉 アケディアより守護石の騎士 シルウァ=ラクリマ。聖王の輝かしい治世に変わらぬ繁栄を。」 怠惰 アケディアの騎士は口上の最低限以下、重要な文句のみを言い終えるとすぐさま一歩下がり涼しい顔をしている。惰性の都、と謳うだけあって必要最低限のことを成して元の位置へ戻る彼の姿はアケディアの国民性をよく表している。騎士王もその側近たる守護石騎士筆頭も、気にかけることすらなかった。そういうものなのだ、と納得しているからだ。

「戦備の都、すべての力が集まるくに。 紅玉 イラより守護石の騎士 ルプス。今回は記念日の祝福を言祝ぐ為に参上した。……聖王の敵には血と剣の制裁を、そして願わくばカーテナの未来に血と剣の必要が無きことを。」 憤怒 イラの騎士は言い終えると静かに一歩踏み出し、祭礼用の剣を抜くと紅玉式の最敬礼を王へ捧げ、すぐに元の場所へ下がった。

「羨望の都、すべての羨みを満たすくに。金剛 インウィディアより守護石の騎士。そして、七石騎士筆頭 ルドヴィクス=イークウェス、ここに。聖王の治世に誉れあれ、すべてのカーテナ国民に平等な幸が行き届かんことを。」 嫉妬 インウィディアの騎士、そして王の義兄弟にあたる騎士が最後の口上を述べ終えると七石騎士達は示し合わせた様に己の得物を召喚し、玉座の王の前に置かれている大きな篝火台に捧げる。すると何処からともなく紫の小さな炎が現れ、騎士達の得物を包み込む。小さかった炎は油を注がれたかの様に燃え上がると、やがて……収束する。 篝火台の中に騎士達の得物は無く、この儀式に初めて参列をしたグラとアワリティアの騎士は愕然とするが、すぐに先達の騎士たちが得物を再び召喚し、その武器たちが紫に淡く輝いているのを見ると顔を見合わせ、慌てて先達に倣って武器を取り出す。 騎士たちが先に武器を掲げ、カーテナ王も自らの得物を掲げてカーテナ唯一の”神”に形ばかりの祈りを捧げると儀式は今年も恙無く終りを迎えた。

そして儀式の後は、王城で七石騎士、近衛騎士、城下騎士、市民と関係なくたくさんの料理が振る舞われ、三日と三晩続く宴へ発展した後に一週間をかけて日常に戻る。それがカーテナ式の建国祭だ。願わくば、瞬きの平和が少しでも長く続くように。

今日のお話は、ここまで。 今度は騎士達の日常でも語って聞かせようね。